極道社会は本来、博徒と香具師の2つのルーツを持つ。
定住型の博徒に対し、薬草の神・神農皇帝を始祖とする香具師は日本各地を旅する放浪者であった。
この荒ぶる男社会において密教を信仰する者、神仏の刺青を持つ者がいるなど、
冷徹なリアリズムと精神世界という真逆の価値観が並存する奇妙な側面はよく知られている。
もし薬師である香具師たちが、人智を超えた地を旅する秘術の使い手であるとしたら…。
本作はその"呪術的極道"という架空の極道社会を描くものである。
本作品は"レトロフィルム"をテーマに、フィルム傷や編集のコマ残しなど、ジャンクなイメージに仕上げられている。
全てがきれいに仕上げられるデジタル全盛の時代だからこそアンチ・デジタルのベクトルにこだわり、
監督の映画制作の原点となる70~80年代のB級作品や8ミリ映画テイストを持った手作り感覚溢れる映画へのオマージュを目指したものである。
この"レトロなフィルム傷"たちに豊かになっていく時代に静かに姿を消していった登場人物たちへの憧憬と惜別の思いが重ねられ、
本作品の世界観を支える大切な要素となっている。